こんにちは、ノーバス馬込校です。
―ある日の暮方の事である。一人の下人(げにん)が、羅生門(らしょうもん)の下で雨やみを待っていた。―
高校の現代文の授業を受けた方であれば、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?芥川龍之介の羅生門、その冒頭の一節です。
主人公の下人は、日々の食糧を得るにも寝る所につけても路頭に迷う生活を送っていた中、ふと雨宿りのために羅生門の軒下へ来ました。この先どう生きていこうか、今日死ぬか明日死ぬか。そんな様なとりとめのない考えを続けていると、羅生門の2階に一人の老婆を見かけました。老婆は、飢えて道端でのたれ死んだ人たちの髪を束ねて鬘を作り、それを売ることで生計を立てていました。
その老婆を前にして、下人は『この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くと云う事が、それだけで既に許すべからざる悪』と断定し、ふつふつと正義感を抱き始めたのです。しかし、いざ刀を抜いて老婆を切ろうとしたその時、下人の頭に一つの考えが思い浮かびます。それは、『さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気』、即ち、老婆から追い剥ぎを行うことでした。
そうして、見事に老婆から追い剥ぎをした下人は、その場を足早に去っていきました。どこへ向かったのかは明らかにはされていません。
『羅生門』は、元々今昔物語の『羅城門』を題材として書かれたものです。『羅』という文字には、周囲を巡らすという意味があることから、『羅生門』の内外が生死の境界という見方ができるとされています。
下人は果たして老婆から追い剥ぎをした後、生を全うしたのか、または羅生門を飛び出して混沌の内に死を選ぶことになってしまったのか。
皆さんも、ぜひ一読の後、考察してみてください。
こんにちは、ノーバス馬込校です。
あれほど待ち望んでいた夏休みも、あと10日ほどで終わりを迎えますね。いかがですか?楽しかったですか?それとも、宿題や勉強に追われて辛かったですか?あるいは、今から追われる予定の人もいらっしゃるかもしれませんね。
人によって、この夏の過ごし方は様々だったでしょう。
振り返ってみて、充実した夏となりましたか?
どんな夏であれ、満足した夏であったのならば、何も言うことはありません。
しかし、もしそうでなかったとしたら・・・
このまま夏を終わらせてしまって、いいんですか!?
悔いが残る前に、あと10日間だけでも、学習を積んでいきましょう。
少しでも早く前を向けば、それだけ見通しを早く立てられるのですから。
たった1時間でも、自習するのとしないのとでは大きな違いが生まれますよ?
いつでも、お待ちしております。
全般 [2019-08-10]
こんにちは、ノーバス馬込校です。
今回は、自分が思う『一度は読んでいただきたい日本の小説』をご紹介します。
題名は、『蜜柑』。芥川龍之介によって書かれたものです。
或曇つた冬の日暮である。私は横須賀発上り二等客車の隅に腰を下して、ぼんやり発車の笛を待つてゐた。とうに電燈のついた客車の中には、珍らしく私の外に一人も乗客はゐなかつた。外を覗くと、うす暗いプラツトフオオムにも、今日は珍しく見送りの人影さへ跡を絶つて、唯、檻に入れられた小犬が一匹、時々悲しさうに、吠え立ててゐた。これらはその時の私の心もちと、不思議な位似つかはしい景色だつた。
本当ならば、是非とも紙媒体で手にとっていただきたいのですが、しかしそれ以上にこの文面は美しいのです。
例えば冒頭部、『或曇った冬の日暮』とあります。この情景は、想像に難くないのではありませんか?これがもし『ある冬の日のこと』とかだったりしたら、少し漠然とした表現になってしまってよく分からなくなってしまうでしょう。また、これはこの文章に限ったことではありませんが、情景描写に際して、色を用いた表現を多くしていることもポイントです。
はてさて、曇りくさった主人公の前に、二等車と三等車を間違えて乗り込んできた少女がやってきます。少女の服装はみすぼらしく不潔で、しかも乗車する車両も間違えているのにその傲岸不遜な態度といったら、全く鼻持ちなりません。けれど、少女はこれからたった一人、家族のために貴族の家の召使いとして働くためにその列車に乗っているのでした。そうしていくつかの遂道を抜けて、ある貧しい村はずれの踏み切りに差し掛かった時、彼女の三人の弟が列車を待ち構えていたのです。
小娘は、恐らくはこれから奉公先へ赴かうとしてゐる小娘は、その懐に蔵してゐた幾顆の蜜柑を窓から投げて、わざわざ踏切りまで見送りに来た弟たちの労に報いたのである。
暮色を帯びた町はづれの踏切りと、小鳥のやうに声を挙げた三人の子供たちと、さうしてその上に乱落する鮮な蜜柑の色と――すべては汽車の窓の外に、瞬く暇もなく通り過ぎた。
やはり、この文の右に出る文言は他にないと思います。
詳しく理由を話すことはしません。ぜひ、自分の目で一度読んでみてください。